シューベルトの魔王は、中学校の1年生で取り上げられる鑑賞の曲です。
疾走感のあるピアノの伴奏とドラマティックな歌詞とメロディでみんな
「かっこいい!」
と思う曲ではないでしょうか。
教える側としては、曲そのものがこのようにキャッチーであると、
良きも悪きも
「ただ聴かせるだけ」でもかなり良い音楽体験にすることができてしまいます。
でも、それだけで終わっていませんか?
鑑賞って聴きとることが活動の中心ですから、
どうしても受動的になってしまうことが多いです。

「中学校学習指導要領解説」の第一学年の目標と内容(鑑賞はp.43から)にも、
「音楽を分析的に聴いて、根拠を持って音楽を評価できるように」
みたいなことが書いてありますよね。

この記事では
作曲専攻で勉強し、
教員の採用試験では、模擬授業で「魔王」の鑑賞を選んだ(そして合格した)私が、
「魔王」の鑑賞の授業をより質の高いものにするポイントやヒントを解説します。
是非最後までご覧ください!
Contents
ありがちな「魔王」鑑賞の授業
- 鑑賞シートに感想書かせるだけになりがち
- とりあえず、作曲家シューベルトの「人となり」を紹介して聴くだけになりがち
- 「魔王」と「父」と「子供」に分かれて寸劇やって楽しかったね、で終わりがち
鑑賞の授業で生徒がどのように感じたかを評価するには、感想を書かせることも大事ですが、
「曲を聴いてみて思ったことや浮かんだ情景を書いてみよう」
だけでは、

このタマムシ色の感想をどうやって評価に生かせば良いのかしら…(泣)
自由に書いた感想をどのように評価するのかというところでじぶんの首を締めてしまいます。
作曲者や時代背景を説明するのも、勉強にはなりますが、
「それで結局この曲はどんな良さがあるの?」という質問に答えるには根拠の薄い情報になってしまいます。
「魔王」はバラード(対話形式)でできていますから、そこをとらえて、
寸劇を生徒に演じさせてアクティブな授業にすることも可能ですが、
先ほどと同じく「それで?」と言われてしまいそうです。

曲の分析からみる「魔王」の鑑賞授業の観点4つ
- 「詩の世界にピッタリ合う音楽ってどんなもの?」という意識を持たせる
- 伴奏型について考えてみる 演奏させてみる
- 子供のセリフの盛り上がりに注目する
- 魔王のセリフの「調」に着目する
①「詩の世界にピッタリ合う音楽ってどんなもの?」という意識を持たせる
「魔王」の詩はゲーテによって書かれた、バラード形式の詩で、
「対話」によって物語が進みます。
音楽を作る際に
「曲が先か」「詩が先か」とも言われますが
クラシック音楽の場合は「詩が先」です。
(ポピュラーだと曲が先の場合も往々にしてあるので、その辺を理解していない生徒も多いかも)
「この曲って歌詞と曲、どっちが先にできたと思う?」
→「クラシックの場合は詩が先だよ」
シューベルト自身も、
「ゲーテのこの詩をどう音楽で表現したら、合うだろう」
と考えながら作曲したはずなので、
「この詩にどう曲をつけたのか」という意識で聴くことを促すことは重要です。
「曲についている日本語の詩」はメロディに合わせて言葉がカットされていたりするため、
詩自体を味わうのには向いていません。
詩をそのまま日本語に訳したものをまずは読ませましょう。
その後、
「さあ、この詩にどんな曲がついたのか、聴いてみようか。」
とワクワクさせながら、1曲通して聴かせてみるんです。
生徒の自由な感想はこの時に書かせると良いと思います。
(曲の解説をした後だと、それに引っ張られて、逆に自由な想像で感想が書けなくなることもありますから)
②伴奏型について考えてみる・演奏させてみる
次からは分析的に曲を聴くという本題に入っていきます!
伴奏型がどんな表現になっているか
最初の伴奏だけを聴かせて(歌詞のあらすじを生徒がわかっている上で)
「ここはどんな表現なんだろう?」
と質問してみましょう。

「速い」
「急いでいる」
「怖い」
「馬が走っている感じ」
など色々な意見が挙がると思います。(ここは自由な意見なので、意見を肯定も否定もしないことも大事)
この挙がってきた意見を板書していきますが、
「音楽の要素」
と
「音楽によって感じた印象」
に分けてみるのが「分析的に聴く」音楽の授業としてはオススメです。
音楽の要素 | 感じた印象 |
・速い
・同じ音を連打している。3連符のリズム ・低い音がある |
・急いでいる印象
・馬が走っている ・怖い感じ |

初稿から決定稿(第4稿)の伴奏型を比較する
ちなみにこのシューベルトの「魔王」は3回書き直されていて、
最初のイントロの伴奏も書き換えられました。
第2稿では、トレードマークとも言える三連符の連打が、普通の8分音符になっています。
↑こちらは決定稿。三連符が特徴的。
↑1816年に書かれた第2稿。三連符ではなく、8分音符になっています。
これを聴き比べてみると面白いです。
Youtubeにアップしましたので、授業でも使ってみてください↓

その後で、実際に簡単な合奏でこれらを演奏してみても面白いかも。リズムの学習にもなる!
左手はピアノ。右手の連打はマリンバとかが良いかもね。
ところで「魔王」の右手の伴奏型(オクターブの連打)を弾くのはプロのピアニストでも腕がつりそうになるので非常に困難な曲なんです。
それを逆手にとって、こんな面白い活動をされている方もいらっしゃいました。
生徒とのヴィヴァルディ『春』の小鳥の鳴き声選手権が地味に楽しい。バイオリンでピヨピヨ🐤押すと、しずかちゃんになるのか、ウルトラマンのピコンピコンになる。
今度はシューベルト『魔王』のピアノオクターブ連打選手権やりたい。これもけっこう盛り上がる(笑)
— 音楽の先生まっつん🎹ソニーミュージックから地元中学校へ (@mattun_music) August 3, 2020
↑「魔王」のピアノオクターブ連打選手権だと…。
めちゃくちゃ面白そうじゃないか…。
③子のメロディの盛り上がりに注目させる・歌ってみる
最後には魔王に連れ去られて死んでしまう「子」のセリフに乗せるメロディもよく設計されていますので鑑賞のポイントとして押さえましょう。
結末である「死」に向かって、魔王が怖いという内容のセリフも曲が進むにつれてどんどん鬼気迫っていきますが、それが音が高くなっていくことで表されています。
子のメロディ1
↑有名な「お父さん、お父さん」のセリフとメロディ。最初はCの音。
子のメロディ2
↑2回目はDの音から。1音高くなっています。
子のメロディ3
↑3回目はE♭の音で、さらに半音高くなっています。これはバリトン用の楽譜ですが、割と声を張り上げる音域。

④魔王のセリフの「調」に注目させる
一方で魔王のセリフに乗せられる音楽はというと、以外にも長調なんですよね。


魔王のセリフ部分1
↑最初の魔王のセリフは変イ長調。落ち着いた調でロングトーンをいかしたメロディで悠然と語りかけます。
魔王のセリフ部分2
↑変ロ短調(1よりも調が全音上がってる)。今度はリズミカルに音符を詰め込んで「あれもあるよこれもあるよ」と口早に子をそそのかす効果を出しています。
魔王のセリフ部分3
↑しびれを切らした魔王。かろうじて最初は変二長調になってそうですが、最後にはハ短調になってしまい、魔王の本性が現れた形になります。


まとめ

- 「詩の世界にピッタリ合う音楽ってどんなもの?」という意識を持たせる
- 伴奏型について考えてみる 演奏させてみる
- 子供のセリフの盛り上がりに注目する
- 魔王のセリフの「調」に着目する

簡単に単元計画を書いてみるとこんな感じです↓
(1時間20〜30分くらいを目安に組み立てると)
1時間目
(導入・自由に聴く) |
①魔王の詩を読んであらすじを理解、対話形式であることに着目
②歌は「詩が先?」「曲が先?」問題 ③「この詩にシューベルトはどんな曲をつけたか?」→一度通して聴く→感想記入 |
2時間目
(展開・分析的に聴く) |
①前時の復習
②最初の伴奏型について考える(どんな印象?情景?音楽の要素と印象の照らし合わせ)→初稿から第4稿の動画視聴や演奏(音が変わると印象はどう変わる?) ③子のメロディの移り変わり(だんだんと声高になっていくことに気づく・歌ってみる) |
3時間目
(展開の続き・まとめ)
|
①前時の復習
②魔王のセリフ部分は長調?短調?(なんで長調なのか考える)→解説 (魔王の寸劇をやるならここで入れる。子のセリフ、魔王のセリフは学んだことを生かして) ③まとめと再度視聴 |

↓こんな映像もありました。
ミュージカル風でオーケストラ伴奏。歌い手さんも声色をかなり変えて歌い、面白いです!
ただ聴くだけでも強烈なインパクトの「魔王」の曲ですが、
聴かせるだけなら誰でもできる。
そこから先が先生の腕の見せどころです!
参考にしてみてくださいね!
