モーリス・ラヴェルが作曲した管弦楽曲の代表作「ボレロ」について解説します。
特徴的なリズムとメロディを聴けば誰もがそれとわかる名曲です。
- ボレロってどんな意味?
- 作曲者のラヴェルとはどんな人?
- ボレロの旋律と伴奏の特徴
- ボレロの曲の構成の特徴
ボレロの曲を少し踏み込んで知りたい方や、音楽の授業で教えるために知識をつけたい音楽の先生にも参考になる記事ですので是非最後までご覧ください!
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コギト | 音楽教材研究家
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ボレロの作曲者・ラヴェルってどんな人?
ラヴェルの生立ち・人生
ラヴェルはフランスのシブール生まれの作曲家。シブールはフランスとはいえ、スペイン国境の近くです。
生まれた土地柄や、母の民族性(フランスとスペイン国境に住むバスク人)から、スペインの影響を受け、音楽にも取り入れた作曲家です。
ラヴェルは、かなりのヘビースモーカーでした。アメリカツアーが決まったときの逸話の一つに、次のような話が残っています。「自分が普段吸っているタバコの銘柄がなければ3ヶ月のツアーに耐えられない」と主張したラヴェル。フランス本土から輸入すると、高額な関税がかかってしまいます。そこでアメリカのタバコメーカーは、ラヴェルが普段吸っているタバコと同じ配分のタバコを作り、事なきを得たそうです。
家のインテリアなどにもかなり気を遣っていたというエピソードもあって、ラヴェルはこだわりの強い人物だったことと想像できますね。
人生の後半は病気に悩まされた人生だったようで、40歳で第一次世界大戦に従軍したあと赤痢に悩まされ、過労も患い、作曲ペースは落ちます。50歳ごろからは言語障害・記憶障害にも悩まされ、自作の「亡き王女のためのパヴァーヌ」の演奏を聴いても自分の曲とわからなかったと言います。57歳ではタクシー事故にもみまわれ、62歳で生涯を閉じます。
ラヴェルの作風
20世紀前半に活躍した作曲家でドビュッシーやフォーレとならんで「印象派」に属する作曲家です。
またスペイン国境近くの生まれなこともあって、スペイン音楽を取り入れた作品も多いです。
「管弦楽の魔術師」「オーケストレーションの天才」という異名を持つほど管弦楽法に長けていて、ムソルグスキーの作曲したピアノ組曲「展覧会の絵」のオーケストラ版がとても有名です。
ラヴェルについて少し詳しく知りたい方は以下の書籍も読んでみてください。マンガや文字でライトに、しかも過不足なく作曲家ラヴェルについて知ることができます。
ボレロってどんな意味?
ボレロとは、スペインで起こった踊りのリズムの名前です。
セギディーリャというスペインの踊りから派生したものです。
ボレロのリズムはこれですね。
ラヴェルのボレロは15分くらいの長い部類の曲ですが、このリズムが一曲を通してスネアドラムで絶え間なく繰り返されます。
服の種類の「ボレロ」
ボレロといえば「服の名前」として思い浮かべるかもしれません。
闘牛士が来ている上着は典型的なボレロという服で、このような服ももともと「ボレロの踊り子たちが来ていた服」に由来し、丈がウェストより短くなっているものを呼びます。
ボレロの旋律と伴奏の特徴
[voice icon=”https://mujikurasu.com/wp-content/uploads/2020/08/0E33B023-B314-4C42-85E5-430035BAC40B-e1597742294818.png” name=”コギト先生” type=”l”]ここからは実際にボレロの曲の解説にうつります! [/voice]
ボレロの旋律
ボレロは2つの旋律の繰り返しからできています。
Aの旋律はハ長調で臨時記号もない、素朴なもの。
ラヴェル自身が「主題はすべて個人が生み出したものではありません。スペイン風かつアラブ風の音楽によくある民謡の調べです」と語っています。
Bの旋律は「スパニッシュアラビアン」という旋法が使われていて、よりスペイン・アラブの香りが強い旋律になっています。
スパニッシュ・アラビアンの旋律
ボレロの伴奏
ボレロの伴奏は3拍子のボレロのリズムとハ長調のⅠとⅤの和音の繰り返しによって演奏されます。響きの肉付けがされていくものの、ずっとこれが繰り返されるだけです。
この伴奏だけで15分もの曲を飽きさせずに続けるなんて単純にスゴイことです。
スネアドラム(小太鼓)のパートはボレロのリズムも延々打ち続けるだけですが、最初ピアニッシモから始まって、少しずつ少しずつ大きくしていって、曲のラストではフォルティッシモになるように計画的に演奏していかなければなりません。
単純なのですが、それだけにスネアドラムの奏者は「途中からわけがわからなくなってくる」そう。このような演奏はかなり集中力を要するようで、あるスネアドラムの奏者は「ボレロは坐禅」という表現をしているくらいです。
父と母の影響が色濃いボレロの曲
ボレロの曲はラヴェルの父と母の影響が色濃く反映されています。
先にも述べたように、ボレロの旋律はスペイン風の調べになっています。これはラヴェルの母がバスク地方の出身(スペインとフランスの国境境)であったことが影響していると考えられます。ラヴェルの最初の思い出は母の歌ったバスク民謡であったことからも彼の記憶にスペインの文化が早くから根付いていたことが想像できます。
またラヴェル自身ボレロについて「この作品の作曲を鼓舞したのは工場」であると発言しています。これはラヴェルの父が機械技師・発明家であり、ラヴェルをよく工場に連れていったことが影響しているでしょう。ボレロの3拍子の規則的な伴奏やスネアドラムのリズムは工場の作業が淡々と前進していく様子や機械音のようでもありますし、Bの旋律の同音連打はハンマーの打つ様子を、後半にかけて強引に下降していく音型は、何か力をかけてモノを押している作業を連想させます。
ボレロの曲の構成
ボレロを作曲することになったとき、ラヴェルは親友のギュスタフ・サマズイユに指一本でボレロの旋律をピアノで弾いて聴かせ、「このテーマは執拗な性格を持っていると思わないかい?」と尋ねたそう。この旋律の性格がボレロの構成の着想となり、「僕はこのメロディをいかなる発展もなしに何度も繰り返してみるつもりだ。そしてできるかぎり効果的に、オーケストラを徐々に増大させていくんだ。」と語ったとおりの音楽に仕上げています。
ボレロの曲の構成は単純です。前述のAとBの旋律をそれぞれ2回ずつ交代に演奏するだけ。伴奏のリズムはずっと変わらず、調も(クライマックスで8小説だけホ長調に転調する以外は)ずっとハ長調です。
15分にもなる曲をこのような単純なアイデアで続けるのは作曲上かなりむずかしいことです。
普通の曲はもっと変化をつけますよ。
通常10分を超える曲を書く場合、旋律・和音・リズム・調など音楽の要素をさまざまに変化させることで曲を飽きずに聴かせる工夫をします(ここでは通常の曲の作り方を「紆余曲折型」と名付けます)
しかしボレロの場合は通常の作曲のやり方の「紆余曲折型」ではなく、例えるなら「一直線登山型」で作曲を行います。
旋律・和音・リズム・調はほとんど変わることがないのに、
- 少しずつ音量と響きを拡大していく
- オーケストレーションの組み合わせで変化をつける
この2点だけで曲を最後まで導いていきます。長い長い一つのクレッシェンドで曲が構成される仕組みです。
「こんなやりかたでどうやって曲ができるかな」という実験的な曲だったんです。
ラヴェル自身もボレロについて以下のように発言しています。
この作品はとても特殊で限られた方法で実験を繰り広げます
ボレロの作品の「一直線登山型」作曲法を図解と音で確認してみてください(↓のツイートの動画を再生してください)
ボレロはラヴェルのオーケストレーションがよくわかる傑作
「ボレロ」はスペイン風の単純な旋律・ボレロの繰り返すリズムの上でどこまでのことができるか試された「長い長いラヴェルのオーケストレーションの実験」ということができます。
作曲当時、この演奏をきた人の中にはこの曲を「異常だ!」と叫んだ人もいるとか。あえて実験的な作曲方法をとったラヴェルにとってはそのような感想も想定内だったといえるかもしれません。
ともかくも「ボレロ」は管弦楽の魔術師と呼ばれたラヴェルの真骨頂を披露するような神業的一曲なのです。
ところでこの曲はバレエ曲として依頼されたもの。
「セビリアの酒場で1人の踊り子が舞台で足慣らしをしていると次第に乗ってきて盛り上がっていく。最初はそっぽを向いていた客たちも次第に踊りに目を向けて最後には一緒に踊り出す」
というあらすじにのっとった踊りがつきます。
モーリス・ベジャールによる振り付けが有名ですのでこちらも是非鑑賞してみてください。
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ボレロの授業でネックになるのはオーケストレーションの説明です。混じり合って鳴っている音がどんな楽器で構成されているのか口や手持ちの楽器だけで説明するのは難しいです。
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