お正月の定番曲である「春の海」は、小学校の音楽の鑑賞授業にも取り上げらています。
ザ・日本の音楽!だよね。
いえいえ、ちょっと待ってください。
宮城道雄が作曲したこの「春の海」は純粋な「日本音楽」ではないんです。
実は「春の海」は西洋音楽を吸収した作曲家の宮城道雄によって書かれた新しい曲。音階や楽器は日本のものでありながら、西洋の音楽をベースにした、「今までにない日本音楽」だったのです。
この曲を単なる日本の代表曲として授業しちゃうとちょっと違うかも…
今回の記事では名曲「春の海」にまつわる知識や、楽曲について解説しています。
この記事を読めば、
- 宮城道雄とはどんな曲を作ったのか
- 春の海はどこが名曲なのか
- 箏と尺八の楽器の基本知識
がわかり、楽曲「春の海」について深く理解することができます。
- 正月の定番「春の海」について詳しく知りたい人
- 「春の海」を音楽の授業で教える先生
参考になる曲や動画も紹介していますので、日本音楽に浸りながら是非最後までご覧ください!
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コギト | 音楽教材研究家
- 音楽教員歴18年の元音楽教員。辞めても教材研究が好きで続ける
- 元作曲専攻で鑑賞や創作の授業が得意、ICT・時短マニア
- ピアノはコンクール全国大会入賞レベルでピアノ動画チャンネル(YouTube)も運営
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「春の海」を作曲した宮城道雄
まずは「春の海」の演奏動画です。ああ、これね。という感じですよね。
「春の海」を作曲した宮城道雄はこんな人です。
- 1894-1956年 兵庫県生まれ
- 7歳で失明し、それが転機となり音楽を志し、箏を始める
- 箏では大検校(盲人の組織の最高官)となり、十七絃の箏の開発者。
- 楽器の演奏・作曲・大学の教授などで活躍する
- 大阪公演へ向かう際、寝台列車から転落し、62歳で亡くなる
西洋音楽への傾倒し、なかでも同時代のフランスの作曲家のドビュッシー、ラヴェル、オネゲル、ミヨーや、ストラヴィンスキーも大好きだったといいます。大人になってからもクラシック音楽のレコードなどをよく集めていたそうですよ。
「春の海」で使われる楽器
箏
箏(こと・そう)はもともと奈良時代に中国の唐から伝えられた古い楽器の一つ。
江戸時代に盲人音楽家の八橋検校によって箏曲の基礎が成立しました。
八橋検校は六段の調べを作曲したといわれている人だね。
江戸時代幕末までには西日本では生田検校の「生田流」が、東日本では山田検校の「山田流」という流派が盛んになりました。(宮城道雄は生田流です)
「検校(けんぎょう))とは?
室町時代に開かれた、盲人音楽家が作る組合制度の「当道座」の中の最高位の役職のこと。検校になるには盲人として、地歌三弦や箏曲、鍼灸ができることが条件とされた。
お菓子の八つ橋(焼いたもの)の形は箏を模したものと言われていて、菓子名の由来も八橋検校からとったと言われています。
基本的な箏の弦(「絃」「糸」という)の数は13絃ですが、17絃、20絃、80絃の箏などもあり、17絃と80絃の箏は宮城道雄が開発したものです。
箏の胴体は桐の木で作られています。
「箏」?「琴」?
「箏」と「琴」、この二つの漢字であらわす楽器は厳密には違います。
琴柱(ことじ)と呼ばれる弦に立てる柱のようなものがあるのが「箏」です。
柱がない七絃琴のような楽器を「琴」と書きます。ギターやバイオリンのように弦を抑えることで音程をとることができます。
尺八
日本の木管楽器である「尺八」。こちらも箏と同じく中国の唐より伝わった楽器です。
雅楽のための楽器として伝来し、一旦使われなくなりました。
その後、室町時代には「一節切(ひとよぎり)」という縦笛を吹いて物乞いをする集団が現れ、これが、普化宗と結びついて「普化尺八」が開発されます。これが現在の尺八で、江戸時代には普化宗の虚無僧のみが演奏できるものとされていました。箏と同じく明治時代には一般にも演奏できるようになったんです。
演奏家の間では単に「竹」と呼ばれるほど竹を切り出しただけのようなシンプルな作りです。
穴は5つ、で竹の節を7つ含むように切り出して作られます。
あまりにもシンプルな楽器のため、表現できることが少ないように思えますが、奏法によってかなり幅広い表現方法があります。
ユリ:アゴを使ってビブラートをかけるような奏法
玉音(たまね):喉や舌を振動させて音を振るわせる(フラッター奏法のこと)
ムライキ:息の音やかすれた音を表現する
コロコロ:トリルのように2つの音をいききする
カラカラ:5孔を閉じて1孔を閉じたり開けたりすることでヒグラシの鳴き声のような音をだす
桃栗三年柿八年と言われるように、尺八の世界には「首振り三年、コロ8年」という言葉があるそうです。
尺八の名前の由来は標準の長さが「1尺8寸」だったからとのこと。リコーダーのように2つに分解できるようになっています。
「春の海」の楽曲解説
西洋音楽の作曲技法で作られた曲
- 日本の楽器で演奏されている
- 日本の音階(5音音階)で構成されている
- 今や正月の風物詩といえるほどに有名曲である
以上のような点で「春の海」は日本の音楽に聴こえるし、日本を代表する曲のように思われがちですが、実はそれまでの日本の伝統的な音楽とは似ても似つかないほど「春の海」は新しい音楽だったんです。
- 尺八と箏の編成、純粋器楽曲であるということ
- 二つの楽器がそれぞれ独立したパートを演奏する点
- 三部形式を取っている点
ここでは箏や尺八の伝統的な合奏の形式である、三曲合奏を聴いてみましょう。
歌が入っていて、基本的には全てのパートが全員同じメロディラインをなぞっていることがわかると思います。(このような音楽の作り方はヘテロフォニー的音楽、といいます)
よって、一つ楽器が減ったり、楽器のパートを交換することも用意にできる音楽になります。
一方で「春の海」の場合は箏と尺八のはそれぞれ全く独立したパートとして演奏されます。お互いのパートを交換することはできません。同じパートをなぞるように演奏するのではなく、お互いのパートの重なり合いや掛け合いに重きが置かれた、和声・多声的な音楽になっています。このような独立したパートをそれぞれが演奏するということはそれまでの事や尺八の曲にはありませんでした。
また、「春の海」は無拍的で朗唱風のA部分と、拍がはっきりしたB部分にわかれています。A-B-Aというつながりの明確な3部形式となっています。これは西洋音楽の楽曲構造になります。
日本の楽器で演奏され、5音音階が使われているので、一見して日本の音楽ですが、実は日本音楽の伝統的な作りとは一線を画した新しい音楽だったわけです。
なぜ正月の定番なのか
「春の海」はなぜ正月の定番の曲となったのでしょうか?
春というと4月あたりを思い浮かべますが、正月を「新春」というように、旧暦では春は2月頃。正月を迎える頃は春の始まりで「新春」だったのです。
そしてこの「春の海」は宮中で行われる「歌会始(うたかいはじめ)」のお題「海辺の巌」にちなんで作曲され、その年(1930年・昭和5年)の1月2日にラジオで流れたのが正式な初演でした。
以上のような曲のタイトルや初演の時期、また正月には改まって日本の文化を感じる機会があることから(正月では着物を着たり箏の演奏を聴いたりしますよね)正月の定番の曲になったと考えられます。
どこの海のことを言っているのか
「春の海」は宮城道雄がかつて旅したことのある瀬戸内の穏やかな海をイメージしてつくられました。
瀬戸内海の島々がモデルであり、長閑な波の音や、船の艪(ろ)を漕ぐ音、鳥の声などを織り込んだ
と宮城道雄自身が述べています。
「春の海」は日本の楽器を使った名曲!
春の海は楽曲形式上、純粋な「日本の音楽」ではないものの、日本の音楽家によって作曲された日本の楽器による名曲であることは確かです。
シンプルな作りながらも、静かな波が打ち寄せる長閑な世界に冒頭から引き込むパワーがあります。中間部との対比も鮮やかです。
フランスの女性ヴァイオリニストのルネ・シュメーが来日した際にこの曲をいたく気に入って、自分から尺八パートをヴァイオリンに編曲し、日比谷公会堂で、宮城道雄とのコラボレーションが実現しました(1932年・昭和7年)。このことからもこの曲が国際的にも認められうる名曲であることがわかりますね。
テレビや正月のイベントのBGMとしてよく流れるこの曲ですが、1曲を通して全て聴くことは稀です。
この機会に是非聴いてみてください!
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「春の海」は風情のある曲ですがちょっと小学生に教えるには地味な感じもあります。盛り上がる箏のクイズなどを入れて興味が持てるような工夫をしました。
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