この記事では中学校の音楽の授業でおなじみ「フーガト短調」の楽曲分析をなるべくわかりやすく徹底解説する記事です。
この曲を初めて耳にしたのは「ウンナンのやるならやらねば」のマモーミモーでした(時代感)。
フーガト短調はヨハン・ゼバスティアン・バッハが作曲した「フーガ」の中でも小規模でわかりやすい名曲となっています。それゆえ中学校の音楽授業の鑑賞曲の定番ともなっています。
学校の音楽教員として18年勤めたコギトが授業用に作成した教材をもとにこの記事で楽曲解説をしていきます。
図解や譜例、動画も交えて解説していきますのでぜひご覧ください。
- フーガト短調やフーガの構造について深く知りたい人
- これからフーガト短調を授業する音楽の先生
「フーガト短調」の授業用教材がダウンロードできます!
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コギト | 音楽教材研究家
- 音楽教員歴18年の元音楽教員。辞めても教材研究が好きで続ける
- 元作曲専攻で鑑賞や創作の授業が得意、ICT・時短マニア
- ピアノはコンクール全国大会入賞レベルでピアノ動画チャンネル(YouTube)も運営
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「フーガト短調」のフーガとは?
フーガを理解する前にまずは「多声音楽」について理解しましょう。
多声音楽はバッハによって大成された作曲技法
今現在のポップスなどで主流の音楽の手法は単声(和声)音楽です。メロディは一つで伴奏が和音としてなっている音楽です。
一方多声音楽は、メロディがいくつも同時進行することで音の重なりを表現する音楽です。(「カエルの歌」の輪唱も多声音楽ということができます)
西洋の音楽の音楽の作り方を音の重なり方という視点で見ていくと、時代の流れに沿って以下のように移り変わってきました。
単旋律音楽→多声音楽→単声(和声)音楽
いきなり専門用語が3つも…
これを説明すると以下のようになります。
特徴 | 時代 | 代表的な作曲家 | |
---|---|---|---|
単旋律音楽 (モノフォニー) | グレゴリオ聖歌のように一つの旋律のみで構成される | 11世紀以前 | ー |
多声音楽 (ポリフォニー) | 複数の旋律が重なることで、音が重なっていく | 11世紀〜18世紀中頃 | パレストリーナ・バッハなど |
単声(和声)音楽 (ホモフォニー) | 一つの旋律に和音が伴奏として付くことで音が重なる | 18世紀中頃〜 | ベートーヴェン・ショパンなど |
中世にグレゴリオ聖歌として伴奏もなく縦の音の重なりがない単旋律音楽(モノフォニー)が演奏されていました。
そこへ平行オルガヌムなど、徐々に音を重ねるようになっていき、ルネサンスのパレストリーナなどの時代には多声音楽(ポリフォニー)が発展していきました。
バロック時代のバッハによって多声音楽は頂点を極め、バッハの死後には古典派に移り、ベートーヴェンやショパン、ひいては今の流行の音楽にあるような「一つの旋律に和音の伴奏」という単声(和声)音楽(ホモフォニー)が主流になっていきました。
バッハは多声音楽時代の終着点であり、総まとめのような存在です。
フーガは多声音楽の音楽の形式の一つ
フーガは多声音楽で作られた音楽の一つの形式です。
多声音楽の中にフーガという形式があるわけね。
単に複数の旋律が絡み合っているだけではなく、以下のような型が決まっているのがフーガです。
- 「主題(Dux)」「応答(Comes)」という二つのテーマがある
- 二つのテーマが曲の冒頭で順番に現れる
- 3部分に分けることができる
- 第一部ではテーマが順番に出揃う
- 第二部では転調や音楽的変化で曲を盛り上げる
- 第三部では主題が再度主調で現れ、曲を閉じる
極めて厳格なのですが、美しい音楽の形式なんです。
上の特徴を読んだだけではわけがわからないと思いますので実際に「フーガト短調」を見ていきながら解説します。
「フーガト短調」の楽曲分析
まずこの記事で使うフーガの用語について前提を押さえておきます(中学校の教科書の用語表記に合わせています)。
テーマ:曲の中心となる旋律のこと(一般には「テーマ=主題」ですが、この記事では2つは区別します)
主題(Dux):フーガのテーマが主調で最初に現れるもの
応答(Comes):フーガのテーマが主調ではなく属調で現れるもの
対旋律:テーマが演奏されている裏で他のパートが演奏されているテーマではない旋律(対旋律と自由旋律でわけることがありますが、ここでは区別しません)
エピソード(挿入句):フーガが演奏されていない曲のつなぎ目の部分
異論はあるかとは思いますが簡単に理解するためにこの前提で説明します。
「主題」も「応答」もテーマだ、とここでは理解しておけばいいですね。
「フーガト短調」のテーマ
フーガト短調のテーマはこれです。
上の楽譜は曲の冒頭そのままですが、曲の調である「ト短調」そのもので演奏されているため、このテーマは「主題(Dux)」です。
では「応答(Comes)」はどうなるかというと属調(ニ短調)で現れるということなので以下になります。
「フーガト短調」の曲の流れ
フーガでは声部(パート)の数が決まっています。フーガト短調は「4声のフーガ」なのでソプラノ・アルト・テノール・バスの4つのパートがあり、曲の最後まで変わることはありません。
合唱のパートみたいな感じなのね。
一般的にフーガの曲は3部分に分けることができ、フーガト短調も3部分に分けることができます。
なんだかソナタ形式にも似ているね。
第1部(テーマを提示する)1小節〜24小節
第1部では2種類のテーマがそれぞれの声部で登場し終わるまでの部分です。
テーマは順番に各声部で登場します。必ず1つ目のテーマが全て演奏されてから次のテーマ、というふうに進行します。
一つずつ出てくるから最初は1パートだけで次々に他のパートが入ってくるという形になりますね。
最初のテーマは必ず主調の「主題(Dux))」が使われます。
フーガト短調の場合は以下のような出かたをします。
冒頭(小節1〜) | 2番目(6〜) | 3番目(12〜) | 4番目(17〜) | |
---|---|---|---|---|
ソプラノ | 主題(Dux) | 対旋律 | 対旋律 | 対旋律 |
アルト | 応答(Comes) | 対旋律 | 対旋律 | |
テノール | 主題(Dux) | 対旋律 | ||
バス | 応答(Comes) |
フーガト短調の場合はソプラノ→アルト→テノール→バスと上のパートから順に下がっていくきれいな形ですが、この順番に決まりはなく、最初がアルトでもバスでも構いません。
主題と応答の出方は最初は必ず主題(Dux)でその次は応答(Comes)ですが、3番目以降は交互に現れなくても構いません。主題→応答→応答→主題という出かたもアリです。
最初のパートは1パートのみでの演奏になりますが、2番目・3番目と入ってくると声部が増えます。テーマを演奏していないパートは「対旋律」を演奏することになります。
対旋律はテーマ同時に演奏されるのでテーマと調和(ちゃんとハモる)しつつも性格の違う旋律ということができます。
また、テーマの終わりとその次に入ってくるテーマとの間に、エピソード(挿入句)が挿入されることもあります(次の部分の準備や時間調整的な部分です)。
↓「フーガト短調」の第1部を動画でリアルタイム解説していますのでご覧ください。
フーガト短調の授業用教材ではこの動画の全曲版が視聴できます。以下のリンクからチェックしてみてくださいね。
【わかりやすい!】フーガト短調・バッハ鑑賞授業ネタ(ワークシート・テスト問題付き)
第2部(曲を盛り上げる)25小節〜63小節
フーガにおいて曲を盛り上げる第2部にはいくつかの手法がありますので紹介しておきます。
転調:「フーガト短調」では主調であるト短調→変ロ長調→ハ短調→ト短調と転調をしています
ストレッタ:一つのテーマが終わらないうちに次のテーマが登場する切迫させた表現で緊張感を高める
オルゲルプンクト:一つの音を伸ばすことで強く調を意識させるような効果がある
「フーガト短調」には転調とオルゲルプンクトが多用されていますが、ストレッタはないと言っても良いです。
第2部は25小節、テノールにテーマが現れるところで始まると考えられます。
始まったかと思いきや2小節目(第26小節)には「スカし」て対旋律に変化しています。それとともに今度はソプラノに「頭が削られて欠けているテーマ」が生成されていて続きを演奏するような面白い形になっています。
変化や意外性を持たせて聴いている人に「お?」と思わせるように工夫しています。
バスが低い「レ」の音をずっと伸ばしていますが、これはオルゲルプンクト(持続低音)といって、ベースが固定されていながら上のパートがいろいろ動いている独特な音の場を醸し出します。
またオルゲルプンクトには調を印象づけるような効果もあり、この「レ」の音はト短調の属音で、「ト短調のⅠの和音(ソ・シ♭・レ)に進行したい!」という指向や期待を生み出しています。
緑で囲った部分はエピソード(挿入句)となっています。
ここはその次に現れるテーマを和声的に準備する部分です。なぜ準備が必要かというと、次のテーマが「変ロ長調」で現れるからです。今まではト短調だったため、転調するための和音進行を踏んでいるのがこのエピソード部分の特徴になります。
コード進行を弾いてみるとわかりやすいですね。自然に変ロ長調のⅠの和音(シ♭・レ・ファ)に進行しています。
転調することで音楽的には見知らぬ和音への旅をしているような感覚があります。また、最後にはまた元の調(ト短調)に戻ってこなければいけないわけですから、「この後どうなる?」と期待させるような効果もあります。
この後、41小節目で今度はベースに同じく変ロ長調でのテーマが登場し、しばらく変ロ長調での音楽が続きます。
45小節目から変ロ長調からハ短調に転調するためのエピソード(挿入句)があります。
47小節から、変ロ長調にはなくてハ短調にある「ラ♭」や「シ」の音が現れてきて、49小節では完全にハ短調になっています。その後50小節でソプラノにテーマがハ短調で現れます。
その後、55小節からはまたト短調に戻るためのエピソードがあります。
58小節でト短調に一旦落ち着きこのままト短調で曲を閉じていくと思いきや、最後の盛り上がりをバッハは用意していました。拍ごとに調が変わっていく怒涛の転調ラッシュです。
聴いている人の感情をグッと持っていく…
ここはエピソード部ですが、曲のピークになっていますね。
第3部(曲を終わらせる)63小節〜68小節
第2部、前述の「怒涛の転調ラッシュ」で盛り上げ尽くしたあと、63小節目で主調(ト短調)で主題がベースに平然とした雰囲気で戻ってきたところが第3部。6小節しかありません。
ここからはト短調を崩さず、とにかく曲を終わらせることに向かっています。
最後の和音がト短調のⅠ(ソ・シ♭・レ)でなく、ト長調のⅠの和音(ソ・シ・レ)で明るく終わるのは「ピカルディ終止」といって、この時代の音楽の定番でした。
以上でこの曲の解説は終わりです。
フーガト短調は小規模なフーガの名曲
フーガはソナタ形式と双璧をなす西洋音楽の偉大な形式です。
フーガのしくみを理解していろんなフーガを聴いてみると、「なるほどこうなっているのか」と分析的に聴くことができ、音楽的満足とともに数学的気持ちよさを感じることもしばしば。
「フーガト短調」はフーガの醍醐味の一つである「ストレッタ」の技法こそ使われてはいないものの、わかりやすいフーガの名曲ということができます。
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