この記事では「アルルの女第二組曲」について解説しています。
この組曲は特にアルルの女という話自体を知っていなくても鑑賞できる名曲ですが、知っているとより鑑賞ももっと深いものになりそう。
【「アルルの女」原作を読む】
— コギト🎸音楽の教材研究家 (@COGITOmusic) March 6, 2024
アルルの女の原作を読んでみました。6ページ程度の短編で、話の顛末というより、どうしても忘れられない女を思って絶望する気持ちとかそれを傍で見る母の苦悩を想像させるような作品でした。
読後に第二組曲聴いてみると最初の弦のユニゾンもやたら重く聴こえるような… pic.twitter.com/npbu2gPnE3
「アルルの女」の音楽はもともと劇に付随した音楽でビゼーによって作曲されています。
「アルルの女組曲」には第一組曲と第二組曲があります。
オペラやバレエから作られるタイプの組曲はもとの音楽にある魅力的な曲やエッセンスを盛り込んで、抜粋したりコンパクトにしたりして何曲かセットで演奏するもの。
しかし今回紹介する「アルルの女第二組曲」の編集にはギローというビゼーの友人作曲家が大きく関与していて、たんなる抜粋ではなく、新しい要素が取り入れられたり、アルルの女とは全く関係のない曲まで取り入れられたりしています。
この記事で得られる情報を知っておくと理解が深まり、曲を鑑賞する時の印象も少し変わると思いますのでぜひサクッと読んでみてくださいね。
第二組曲の各曲もこの記事内で聴くことができますので、鑑賞しながらどうぞ。
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【わかりやすい!】アルルの女(メヌエット・ファランドール)鑑賞授業ネタ
コギト | 音楽教材研究家
- 音楽教員歴18年の元音楽教員。辞めても教材研究が好きで続ける
- 元作曲専攻で鑑賞や創作の授業が得意、ICT・時短マニア
- ピアノはコンクール全国大会入賞レベルでピアノ動画チャンネル(YouTube)も運営
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アルルってなに?
アルルとはフランス南部のプロヴァンス地方に位置する歴史的都市。(Google mapで位置を確認)
円形闘技場があったり、ゴッホの絵画で有名ですね。
ここを舞台にした男女による三角関係の物語が「アルルの女」というお話になります。
アルルの女ってどんな物語なの?
「アルルの女」は元々アルフォンス・ドーデ(Daudet Alphonse)が1869年に出版した短編であり、それがのちに戯曲(劇の台本)化されました。ビゼーのアルルの女とは元々この戯曲に音楽をつけたもの。
アルルの女の主な登場人物は以下です。
フレデリ:主人公の裕福な農家の男
アルルの女:フレデリが恋する都会の自由奔放な女
馬の番人ミチフィオ:アルルの女と関係を持ったことがある
ヴィヴェット:フレデリの幼なじみの女で家族公認で婚約する
*ドーデの書いた原作では登場人物の名前は上のものと違います
フレデリはアルルの女に恋をして食事も喉を通らないほど。アルルの女は自由奔放でよその土地の女ということもあり、家族はアルルの女と結婚することに賛成しませんが、母はフレデリがどうにかなってしまうのではないかと気が気でなく結婚を許そうとします。
しかしアルルの女が誰かの情婦であることを知って落ち込み、フレデリは一旦アルルの女を諦めます。
母のすすめに従って幼なじみのヴィヴェットと結婚することになり、フレデリはアルルの女を忘れ気丈に振る舞おうとしますが、やはり忘れられず泣きくらしたり逆に快活になったりと不安定におちいります。
ヴィヴェットとの結婚式かつエロアの祭日の日、(フレデリ家の?)馬の番人の男がアルルの女と今晩駆け落ちすると告げるのを聞くことで錯乱し、最終的には家の屋根裏から身を投じて命を断ってしまいます。
こんなお話です。ちなみにアルルの女自体は話に一度も登場しません。
※ドーデによる原作では冒頭で主人公(原作ではフレデリでなくジャン)が自殺して父がおかしくなってしまった様子が描かれるところから始まり、そこを通りかかった人が一家の使用人に理由を聞くという場面から始まります。
物語の展開というより、主人公やその周りの人たちの感情を読み手に想像させるような作品になっています。6ページ程度の短編で読みやすいのでぜひ読んでみてください。
アルルの女第二組曲はギローが書いた?
「アルルの女第二組曲」はビゼーの死後4年経った後にビゼーの友人である作曲家のエルネスト・ギローによって作られています。
ビゼーの作った劇音楽はどれも短めだったのでそのままだと組曲にはできなかったみたい
ギローは名著といわれる管弦楽法の著書があるくらいオーケストラの作曲法の名手であり、劇音楽の中の断片を繋ぎ合わせたり、他の歌劇から旋律の転用をしたりしながら、ビゼーの作品に近いオーケストレーションをしてこの「第二組曲」を完成させました。
シンガーソングライターがビゼーでアレンジしてちゃんとした曲として完成させるのはギロー、って感じかな。
楽譜にはどこにもギローの名前はなく、あくまで「作曲:ビゼー」となっていますが、第二組曲の完成はギローの腕前なくしてはなかったと言えるでしょう。
「アルルの女第二組曲」の各曲はどの場面?
さて、アルルの女の第二組曲の各曲は、上で解説したアルルの女のお話のどの場面の音楽が使われているのでしょうか?
ここであらすじの復習がてら、原作をもとに作られた戯曲(劇の台本)の場面構成を見てみましょう。ビゼーの「アルルの女」の音楽はこの戯曲につけられています。
第1幕:農家(フレデリの家)
アルルの女と結婚したいフレデリとそれを残念がるヴィヴェット。馬の番人がやってきてフレデリの父にだけ「アルルの女は自分の情婦である」と告げ、フレデリもその事実を知る(相手が馬の番人であることは知らない)。
第2幕1場:湖畔
事実を知って以来誰にも会おうとしないフレデリは人間不信で不安定になる。
第2幕2場:農家の台所
フレデリが悲観して死んでしまうのではと心配する母は反対だったアルルの女との結婚を許そうとするが、フレデリはヴィヴェットと結婚すると言い出す。
第3幕1場:農家の前庭
ヴィヴェットとの結婚式の日かつエロアの祭日に人々が歌い踊る中、馬の番人がやってきてアルルの女と駆け落ちすることを告げ、恋敵が馬の番人であったことを知ったフレデリがつかみかかる。
第3幕2場:養蚕室
夜明け前に狂ったフレデリがハシゴを登って屋根裏へ向かい飛び降りてしまう。
以上の5つの場面で構成されています。
ではこの物語のどこに組曲の各曲があてはまるのか見てみましょう。
第1曲:パストラール
パストラールは「アルルの女」の第二幕の前奏曲から取られ、原曲は105小節まで(動画では4:28の部分)で、105〜129小節ギローがそれを拡大して編集し、組曲の第一曲として仕上げています。
長く伸びる音や木管楽器やホルンなど田園風景を連想させる楽器使いが特徴で「パストラール(牧歌的音楽)」という名前が付いています。
第二幕というのはアルルの女をあきらめたフレデリが誰にも会おうとしなくなったところから始まります。フレデリが死んでしまうのではと危惧してアルルの女との結婚を許そうとする母をよそにフレデリは幼なじみのヴィヴェットと結婚すると言う、というのが第二幕です。
なんか想像してた平和な感じとは違う…
田園風景とはいえ、その田園で繰り広げられる暗い状況を想像すると単なる牧歌的音楽としてビゼーが作曲したかというとそうでもなさそうですよね。
第2曲:間奏曲
間奏曲は劇中では第二幕の1場と2場を繋ぐ間奏曲として作曲されたもので、原曲がそのまま使われています。
冒頭の悲劇的な旋律、中間部の憧れと寂漠を表現するサクソフォンの旋律、うっとりと幕を閉じるかと思いきや決然とした強奏でしめくくるこの色々な感情をたゆたうような曲。
フレデリの希望と絶望を絶えず思い描く心の内やそれを心配する母の心情の移り変わりを克明に表現しているようでもあります。
展開が読めないというか不思議な進み方をする曲と私は感じます。
第3曲:メヌエット
実はこの3曲目のメヌエットはアルルの女組曲の中でも最も有名でありながら「アルルの女」の戯曲に対して書かれた曲ではなく、ビゼーのオペラ「愛らしきペルトの娘」から取ってきたもの。
アルルの女とは全然関係ないんですね!
この組曲を編纂したギローが「この組曲のまとまりにはこの曲が良い」という独断と偏見のもと採用したと考えられます。
終盤のフルートとサクソフォンのカノン(追いかけっこ)的な旋律まわしもギローが考えたものです。
第4曲:ファランドール
堂々・嬉々としたような最後の曲ファランドールのオーケストラ編曲はほとんどギローによってなされたようです。
この曲の第一の旋律はプロヴァンス民謡「王様たちの行進(Marche des Rois)」から取られています。
この「王様たちの行進」の音楽はアルルの女の劇音楽の中で、第3幕第2場の養蚕室で登場します。息子を心配する母をよそに外では耕作を祝う百姓の祭りの合唱が聞こえてきます。その合唱の旋律がこの「王様たちの行進」の旋律です。
また、以下の第二の旋律はドラムのリズムを伴って現れます。
タンブーランという長太鼓とフルートによって演奏される速い踊りが「ファランドール」というプロヴァンスの祭りの踊りの音楽の特徴で、この曲がファランドールと題されるのはこの第2の旋律とリズムによってといえます。
この第二の旋律が登場するのは第3幕第1場で、祭日であり結婚式であるその日、馬の番人が「アルルの女と今晩かけおちする」と告げるのを聴いたフレデリは恋敵が誰であるかを知りワナワナと気持ちが高まり焦燥していきます。そのフレデリの高まりと相まって背景で歌い踊られているファランドールの音楽、という設定です。
周りの人たちが楽しく踊っている祭りの音楽がフレデリにとっては狂気の音楽になっていったっていう…。
まとめ 「アルルの女」の物語を知れば印象も変わる?
壮大に聴こえる「パストラール」、曲想がさまざまに移り変わる「間奏曲」、絢爛で血が湧き肉躍る「ファランドール」。
曲だけでも十分に鑑賞できる(から組曲になっているわけですが)「アルルの女第二組曲」。アルルの女という物語について知ってみると、それぞれの曲がまた違った印象を持って聴こえてくるから不思議。
ファランドールはお祭りの音楽でありながら、フレデリの精神錯乱していく焦燥の音楽でもあったわけですね。
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