この記事ではオペラ「魔笛」と当時の時代背景であった「啓蒙主義」との関係について解説していきます。
「高校生の音楽2」でも魔笛を鑑賞する上での目標が以下のように書かれています。
・メルヘンオペラとしての《魔笛》の内容や登場人物と音楽との関係を理解するとともに、歴史的背景として啓蒙主義がこの作品に与えた影響を理解して聴く
「高校生の音楽2」年間指導計画作成資料より
といっても私社会の先生じゃないから啓蒙主義って言われてもちょっと…
- 啓蒙主義ってどんな考え方?
- モーツァルトと啓蒙主義(フリーメイソン)との関係
- オペラ「魔笛」が啓蒙主義の表現となっていること
この記事を読めばモーツァルトがオペラ「魔笛」をどんなコンセプトで創作したのかがわかり、ちょっと意味不明な魔笛のストーリーも啓蒙主義になぞらえると理解することができます。
この機会に魔笛についてより深く理解したい人や魔笛を授業で扱う先生は是非お読みください。
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コギト | 音楽教材研究家
- 音楽教員歴18年の元音楽教員。辞めても教材研究が好きで続ける
- 元作曲専攻で鑑賞や創作の授業が得意、ICT・時短マニア
- ピアノはコンクール全国大会入賞レベルでピアノ動画チャンネル(YouTube)も運営
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啓蒙主義とはどんな考え方?
啓蒙(けいもう)思想とは、英語で「Enlightnment」、フランス語で「Lumières」。要するに「光」の意味です。
何の光かというと「理性の光」。
18世紀を中心に、それまでの絶対主義(君主に無制限の権力を持たせる考え方)や宗教的な神への信仰や迷信などに対して異議を唱え、理性や批判を尊重し、自分で考えることを大事にした考え方のことです。
なるほど、前の時代の反動からきているわけですね。
今までは「王様が絶対に正しい」とか、「神を信じておけば間違いない」、みたいな他律的な考えではなくて、「世界にはちゃんと原理・原則があってそれは考えればわかるよ」という自立的な方向転換だったと言えます。
この時代、哲学者のカントが、
なんじ自身の悟性(≒理性)を使用する勇気を持て
と言ったり、
「百科全書」が編纂されたりしたことからも理性重視のムーヴメントだったことがわかりますね。
モーツァルトと啓蒙主義とフリーメイソン
でも啓蒙主義とモーツァルトとどんな関係が?
まず啓蒙主義の考え方が始まったのが17世紀末で、広まったのは18世紀。モーツァルトの時代1756年生まれの1791年没ですから啓蒙思想が主流の時期に生きていた作曲家ということになります。
そしてモーツァルトは当時啓蒙思想団体であった「フリーメイソン」に加入していたことが知られています(「魔笛」の脚本を書いたシカネーダーもフリーメイソンでした)。
この事実からモーツァルトが啓蒙思想の影響を色濃く受けていたことが推測できるわけですね。
フリーメイソンって?
中世からある秘密結社で、その起源は建築職人にさかのぼることから、ロゴにはコンパスや定規が用いられています。
フリーメイソンというと「三角に目」という次のような「プロピデンスの目」が有名ですが、これはフリーメイソン独自のアイコンではなく、キリスト教の「三位一体」を象徴するもの。アメリカのドル紙幣にも描かれていて、フリーメイソン自体のマークではありません。
18世紀のフリーメイソンは啓蒙思想と結びつきがあり、理性や個人の自由を重視する価値観を持ち、科学的な探求と人権尊重を推進し「友愛」「寛容」「真実」などを基本原則としています。
また当時のフリーメイソンは多くの儀式やシンボルを用いて神秘的な教義を伝えていました。「3」という数字もとても重要とみなしています。
有名なフリーメイソンの会員としては、音楽家で言えば、リスト・シベリウス・デュークエリントン・ナットキングコール・クレンペラーなどがいます。
その他、マッカーサーやワシントン、カーネルサンダースもフリーメイソンで、初期のカーネルサンダース像はフリーメイソンの会員バッジをつけているんです。
現在フリーメイソンはロッジという支社みたいなものを各地に持っていて、多くの人が想像するような「怪しい秘密結社」感は薄いです。入会は現会員の紹介によるためクローズドな印象はありますよね。日本にも十数箇所のロッジがあります。
オペラ「魔笛」への啓蒙主義の影響
今まで見てきた啓蒙主義がオペラ「魔笛」にどのように表現されているのでしょうか?
「魔笛」は啓蒙主義への啓発オペラ?
魔笛は啓蒙主義へのいざないのメッセージが込められていると考えられます。
「魔笛」のあらすじっていきなりザラストロが「試練だ」とかいいだしてなんで急に?ってわけわからなくなるんだけど…
啓蒙主義が「光」という意味があるように、常に落ち着いた行動を見せる理知的なザラストロの太陽の世界はまさに啓蒙思想の目的地ということができ、逆に夜の女王や3人の侍女たちは「まだ理性の光に照らされていない前時代的な考え方(夜の世界)」の象徴と見ることができます。
魔笛のあらすじは夜の女王に助けられたタミーノが最初は夜の女王の言う通りに行動するわけですが、次第にザラストロが正しいと理解していき、最後には光の世界が勝利してタミーノとパミーナが結ばれるというストーリーです。
前時代の宗教や王権が絶対だという時代から、理性を重んじる時代への転換をオペラの物語になぞらえたというわけです。
そのように考えると、それぞれのキャラクターのセリフが啓蒙主義と関係づけて理解することができます。
例えば三人の侍女がパパゲーノがついた嘘に対して口を封じてしまう場面で、
この世の嘘つき全員にこうした錠前をつけてやれば、憎しみや中傷や怒りは愛と友情に変わるだろう
と神や絶対者からの罰を匂わせる発言をします。これは前時代的な発言をこの3人にさせているわけです。
また、ザラストロの神殿を訪れるタミーノは、
叡智がここにある。こんなところで悪徳がはびこるはずがない。
と言います。理性を肯定する発言をしています。
ザラストロは、アリア「この聖なる神殿では」でこう歌います。
友の手に導かれて、満ち足りてより良い国へ行くのだ。このような教えを喜ばないものは人間であるに値しない。
神の手ではなく、「友の手」に人は導かれるのだ、と、友愛や寛容の精神を謳っています。
このようにオペラ魔笛の随所にこのような「前時代的価値観を排して啓蒙主義を啓発するような内容」が散りばめられています。鑑賞しながら「このキャラはこんなことを言っている」と探してみるとおもしろいですよ。
タミーノが受ける試練はフリーメイソンの入会儀式そのもの!?
王子タミーノが光の世界に開眼していくときにザラストロが試練を与えることになるわけですが、これが啓蒙主義団体である「フリーメイソン」への入会儀式をなぞっているんです。
魔笛の中でもタミーノが目隠しをして試練を受ける場面があります。この儀式でフリーメイソンの入会を許されるように、オペラの中でも試練を受けタミーノは光の世界に入ることを許されるのです。
なるほど。そう考えるとあらすじもなんとなくわかる。
フリーメイソンのシンボルの使用
フリーメイソンが象徴的に使っていた「3」という数字が「魔笛」にも盛り込まれています。
魔笛序曲の冒頭には「3」つの和音が鳴らされ、このシンボルの和音は神官たちがタミーノの試練について話し合う場面など、その他でも転用されています。
また劇中にも「3」という数字が出てくるのはご存知の通りですね。
- 3人の侍女
- 3人の奴隷
- 3人の童子
- 3つの神殿の入り口
啓蒙主義を理解した上でオペラを鑑賞してみよう
名曲のアリアが燦然ときらめき、キャラクターも多様でコミカルかつシリアス。
大衆用にセリフ付きドイツ語オペラ(ジングシュピール)として聴きやすくウケよく制作されたこのオペラですが、啓蒙思想という内容に関連づけて鑑賞してみると、奥ゆきを持って聴くことができます。
このオペラがそのような意図をもって作られたことは確定的ではありませんが、今では多くの音楽学者や歴史学者には受け入れられている見解のようです。
脚本を書いたシカネーダーも作曲したモーツァルトも啓蒙主義団体のフリーメイソンに加入していたことを考えれば、このオペラが啓蒙主義への招待という意味付けがあり、かつフリーメイソンへの入会儀式になぞらえていることも信ぴょう性はありそうですね。
このオペラをただのタミーノとパパゲーノのメルヘンな物語だととらえるより、啓蒙主義との関連で考えた方があらすじの理解もしやすいです。
魔笛のおすすめのDVDは?
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みなさんのオペラ鑑賞の一助になれば嬉しいです。
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今回は以上です!
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