最近は音楽の教科書でも近現代音楽が積極的に取り上げられている印象。
この記事ではストラヴィンスキーの名曲「春の祭典」をもとに音楽の原始主義について解説しています。
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今日はこの教材の中から、原始主義について触れた部分をピックアップして図解付きで中学生や高校生でもわかるように説明します。
是非最後まで読んでいってください。
コギト | 音楽教材研究家
- 音楽教員歴18年の元音楽教員。辞めても教材研究が好きで続ける
- 元作曲専攻で鑑賞や創作の授業が得意、ICT・時短マニア
- ピアノはコンクール全国大会入賞レベルでピアノ動画チャンネル(YouTube)も運営
- ICTを駆使・時短マニアnoteで自作教材をアップ、3000ダウンロードを突破!
- 音楽教員のためのオンラインサークル「ムジクラブ」運営中
原始主義音楽の特徴3つ(春の祭典を例に)
原始主義音楽の代表的な作曲家はストラヴィンスキーとバルトークが挙げられます。原始主義音楽の特徴は以下の3つ挙げられます。
- 不協和音
- 強烈なリズム
- 単純なフレーズの繰り返し
これらによって「洗練からは逆行した荒削りで土俗的な表現」というイメージを獲得している音楽といえます。
モーツァルトなどの気品ある音楽と、原始主義のストラヴィンスキー音楽はまるで「綺麗に剪定された西洋庭園」と、「原色に彩られた原生林そのままの姿」を比べて見ているような違いがあります。
3つの特徴を「春の祭典」の音楽を例に紹介します。
不協和音
強烈な印象を与えるために不協和音が多用されるのが原始主義音楽の特徴です。
モーツァルトやショパンの音楽の和声進行は「不安定な和音から解決して主和音に」というストーリー性があるため予測しやすく安心して聴けるのですが、ストラヴィンスキーの曲で使われるような「脈絡なくいきなり立ち上がる(ように聴こえる)複雑怪奇な不協和音」は聴いている人に新鮮な印象を与えます。
一見めちゃくちゃな和音に聴こえるため、
原始主義音楽って原始っていうくらいだからめちゃくちゃにやってるだけ?
と誤解されもしそうですが、実は偶然性の音楽のようにサイコロを振って和音の音を決めているわけでもなければ、クラスター和音のように手のひらで鍵盤を叩いているわけでもありません。
「複調(多調)」という考え方を使っています。
モーツァルトのピアノソナタを例に見てみましょう。普通にピアノを弾くなら右手がハ長調なら左手もハ長調ですよね。ここがズレることはありません。
しかし、複調の場合は右手がハ長調で左手が変イ長調だったりします。モーツァルトのピアノソナタを変えてみると以下のようになります。弾いてみてください。
音で聴くと以下のツイート動画のようになります。
複調を理解するためにモーツァルトの曲を遊びで複調にしてみました。意外と適当じゃダメで、「うん、変イ長調が一番合うかな」みたいな感じでした。
— コギト🎸みんなの音楽授業ネタ発信 (@COGITOmusic) May 1, 2023
複調多様したストラヴィンスキーもいろいろな響きを試して作曲したんだろうなぁ。 pic.twitter.com/NfXgDGto6A
複調を使うとちょっと不思議な(浮遊したような)和音になります。
このような手法で、次々と斬新な不協和音を作っていったストラヴィンスキー。
一番有名な和音は以下の第1部の2曲目「春の兆し」の冒頭です。
春になり、戦いや恋に盛んな古代の異教徒の女村人の踊りが表現されている部分で、以下の図解のように半音ずらした和音を2つぶつけ合うことで邪悪な感じのする和音にしています。
強烈なリズム
前述の「春のきざし」にみられるようにアクセントを伴った不協和音を利用することも然り、ストラヴィンスキーの場合は転拍子と変拍子によって独特の強烈なリズムを生み出しています。
転拍子:曲の途中で拍子が変わること
変拍子:5拍子や7拍子のような拍子のこと
(これらの意味については複雑なため簡単な説明に留めています)
ストラヴィンスキーの「春の祭典」には変拍子も転拍子もどちらも登場しています。
上の譜例は第2部の最後の曲「生贄の踊り」。この部分の楽譜はこのように小節ごとに拍子が変わり5拍子も登場。狂ったような転拍子です。
演奏もさることながら、指揮するのも、バレエで踊るのも至難なのではないでしょうか。(実際初演時の振り付けを担当したニジンスキーはかなり手こずったとか…)
太陽神の怒りを鎮めるために選ばれた生贄の乙女がの踊りであるこの部分。ニジンスキーは「首をかしげ、ぴょんぴょん飛び回る」といういびつな踊りをこの曲にあてがっています。
単純なフレーズの繰り返し
原始的な表情を最も醸し出すストラヴィンスキーの音楽的特徴が、「単純なフレーズの繰り返し」です。
これは第2部の5曲目「祖先の儀式」が好例です。
コーラングレが長く伸ばす音による「どシンプル」な旋律を何度も演奏します。
長ったらしくて怪しい老人の儀式が批判的に表現されていますね。
まとめ 「春の祭典」は原始主義音楽の代表曲
原始主義(Primitivism)は幼児の絵のように本当の原始(Primitive)を再現すれば達成されるものではありません。
「春の祭典」がめちゃくちゃな和音・リズムのように聴こえて実は複調の原理や変拍子・転拍子を使って極めて緻密に構成されているように、原始的なものを「知的に狙って再現」しているといえるのではないでしょうか。
このように複雑で「どう考えてこんな音楽を作ったのか」疑問に思うようなリズムや和音でも、実際に分析してみたり演奏してみたりすることで、言わんとしているところが理解できたりします。
春の祭典のような近現代音楽を毛嫌いする人もいますが、中高生にもわからないだろうと決めつけずに聴かせてみることも大切と思いますよ。
実は私自身も近現代音楽を若い頃は遠ざけていました。わけのわからない「不協和音」や「リズム」「突飛な旋律」などが理解できず、1曲通して聴くのもストレス、という状態でした。
でも勉強だからと聴いていくうちにだんだんと理解できるようになり、不協和音やぐちゃぐちゃなメロディラインの中にも情熱や官能のようなものを感じ取れるようになり、急激にハマりました。
辛い食べ物と一緒。何度も試していくうちに良さがわかるようになってきます
逆に中高生に近現代音楽のような新しい音楽を体験させておくことが、音楽に限らずあらゆる「多様性」を認める感受性を育むきっかけになると思うのです。
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