2021年1月7日、首都圏の一都三県に「緊急事態宣言」が発令されてしまいました。

さかのぼって、
2020年11月20日に兵庫県の中学校の合唱コンクール後に22人のクラスターが発生。
(練習ではマスクをしていたが本番はマスクを外し、生徒間の距離は50センチ程度だったという)
また、埼玉県川越市の中学校では合唱コンクールの練習が原因とみられるクラスターで35人が感染。(マスクを外して練習していたとのこと)
このことなどを受けて文科省は、
- 合唱時は原則マスクを着用
- 合唱時は最低1メートル(2メートルが望ましい)の間隔を開けること
- マウスシールド、フェイスシールドは合唱時は推奨できない
小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校において合唱等を行う場面での新型コロナウイルス感染症対策の徹底について(通知)(令和2年12月10日)
との通達を出しました。
そして2021年1月になって、緊急事態宣言。

文科省の通知(「学校における新型コロナウイルス感染症 に関する衛生管理マニュアル ~「学校の新しい生活様式」~ (2020.9.3 Ver.4)」)では、管楽器は感染リスクの高い活動として、感染が拡大している状況では「行わない」こととなっています。
一方、歌唱については、感染リスクの高い活動として同じく位置付けられてはいますが、
「室内で児童生徒が近距離で行う合唱」は感染リスクが高い活動
という表現になっていることは知っていましたか?

この若干の含みをもたせた表現がいろいろ解釈の幅を呼び、私の学校でも、
鍵盤ハーモニカとリコーダーは中止だけど、
歌唱を行うかどうか今後検討、ということに。

この記事では、これから歌唱の可否について検討する私の学校の会議に向けて、
自分で調べてみたことをシェアしたいと思います。
不用意な情報は流すと大変なことになりますので、
なるべく信頼のある出所の情報に限り、
自分の主観的な意見は抜きにして情報提供したいと思います。

という方にももちろん、

という方も、
正しいリスク回避の知識をつけて授業に臨むことは大事ですので、
是非この記事に一度目を通していただければと思います。
これから安全に授業を運営するのに役立つと思います。
それではいきます!
Contents
文部科学省のガイドラインでは管楽器は「感染リスクの高い活動」

学校に関するコロナウィルスのマニュアルは2020年9月3日に出されたものが最新です(その後は周知や徹底の通知がなされているだけです)。
これによると、

上の表では感染症に関する地域の拡大レベルが分類されています。
レベル2に該当する感染状況では、「歌唱や管楽器は慎重に検討し、リスクの低い活動から優先して行っていくか、行わないことも検討する」というような記述が、
また、
レベル3に該当する状況では「行わない」とされていることが下の表からわかりますね。

学校における新型コロナウイルス感染症 に関する衛生管理マニュアル ~「学校の新しい生活様式」~ (2020.9.3 Ver.4)p.14
この文章に忠実に従うとすると、
クラスターが発生し、感染者が増加している状況(レベル2以上)では、
感染リスクの高い活動(「室内で近距離で行う歌唱」「管楽器(リコーダー鍵盤ハーモニカ)」は活動を中止する
ということになります。

歌は「距離をとって」歌えば大丈夫?

文科省の通知では、
「室内で近距離で行う歌唱」=感染リスクの高い活動
と言われています。

学校における新型コロナウイルス感染症 に関する衛生管理マニュアル ~「学校の新しい生活様式」~ (2020.9.3 Ver.4)p.46


という論理が成り立ちそうな微妙な表現なので、
この感染拡大の状況の中で歌唱を続けるか、中止するか、という判断については、
感染が拡大している地域の学校は相当悩むのではないでしょうか。
(私の学校もその中のひとつです)。

この状況の中、歌唱を行うか中止するか判断するための論点は以下になると思います。
- 歌う場合と普通に話す場合のウィルス飛散の差
- 合唱や斉唱で一度に大勢が呼吸することによる影響
- マスクをして歌うことでどのくらいウィルスの飛散が抑制されるか
- 換気することでどのくらいウィルスの飛散が抑制されるか
以下はコギトが調べた情報で、参考になりそうなものです。
室内環境の飛沫の飛び方とエアロゾルの飛散の様子(理化学研究所)
まずは飛沫やエアロゾルの飛散について簡単にわかる動画(といっても38分)から。
口から唾などと一緒になってボールの用に飛んでいくのが飛沫。
口からもっと細かな粒子でタバコの煙を吐き出したように広がっていくのがエアロゾルです。
この飛散の状況について詳しく解説されているのが上の動画で、
31分16秒くらいからは合唱時においての飛沫の様子も解説されています。

この部分だけでもみておくと良いと思います。
①歌う場合と普通に話す場合のウィルス飛散の差(ブリストル大学)
歌う場合と話す場合でウィルスの飛散の程度に差があるのかどうか疑問に持っている人も少なくないかと思います。
違いがあるなら歌を中止する判断材料にはなりますが、
話す場合と歌う場合でウィルスの飛散の程度に違いがないなら、歌うのも、他の教科で先生が話すのも状況は同じ、ということになります。
その場合、歌が一方的に全部中止というのもおかしな話になりますね。
(もちろん、大勢で一斉に歌う場合はまた違う議論になります)

このような記事を見つけました。
英国のブリストル大学の調査によると、
ウィルスの飛散量は、
歌なのか会話なのかによって影響を受けるのではなく、
声の大きさによって影響を受ける、
とのことです。


②合唱や斉唱で一度に大勢が呼吸することによる影響(研究結果なし)

歌唱と会話のウィルス飛散量に差がなかったとしても、
合唱や斉唱など、授業で行う「全員一斉に呼吸して歌う」ことにはリスクがあるのでは、と考えられます。
一斉に歌うことによって、教室内にたくさんのウィルスが飛散し(感染している人がいればの話ですが)それを吸い込むリスクが高まると考えられるからです。
今は12月10日の文科省からの通知によって、「マスクをして歌う」ことが原則になっていますが、
- マスクをして大勢で歌うことでどのくらいウィルスが飛散、教室内に蔓延するのか
- その状況を人数制限や換気等で解消する方法
このあたりは今後の研究で明らかにしてほしいところです。
③エアロゾルに対するマスク着用の効果(東京大学医科学研究所)
新型コロナウイルスの空気伝播に対するマスクの防御効果の記事です↓
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00042.html


マスクをすることで飛沫を飛ばしたり、口元に付着してしまったりすることを防止する効果があることはわかりますが、
マスク着用がエアロゾル(空気浮遊)に対してなす効果については私もちょっとあいまいな理解でいましたので調べてみました。
上の東京大学医科学研究所の記事からわかることは、
- マスクは空気中へのウィルス飛沫もエアロゾルも「飛散させるのを抑える」効果がある
- マスクは空気中からの飛沫やエアロゾルの「吸い込みを抑える」効果がある
- 上の2つのうち、飛散させる抑制効果の方が吸い込みを抑制する効果より高い
- マスク装着の仕方が甘い(鼻の脇が空いているなど)と効果は減少する
- どんなに性能が高いマスクでも完全にウィルスを防御できない(マスクを通過する)
また、ウィーン医科大学の飛散実験の写真によれば、
マスクを着用して歌うと、このようにエアロゾルが空中を舞うようです。



↑以上はマスクなしの場合。前の方向に結構エアロゾルが飛散するイメージです。

↑布マスク使用時。

↑サージカルマスク使用時
以上は口もとに煙をためて発声したときの実験結果ですが、
口に煙を含ませて発声したときの実験結果は以下でより飛散の具合が大きい感じです↓


バイエルン放送、歌唱とエアロゾルに関する最新の研究結果を公表 / MCS Young artist ブログ
実験の仕方によって結果の見え方が違うので、
実際にどのくらいの飛散か、ということは断定しづらいですが、

結果、
マスクを付けていてもエアロゾルは上のように漂い、
かつウィルスの吸い込みもマスクで完全に防止できない
ということなので、
マスクをしていればウィルス対策は万全ということにはなりません。
距離をとったり、換気をしたりすることも合わせて行うことが必要ということになります。
次に気になるのは、
換気をしてエアロゾルを除去できるのか、ということです。
④換気することでどのくらいウィルスの飛散が抑制できるか(横浜薬科大学)

学校における新型コロナウイルス 感染症の感染予防対策 「教室における換気」 / 横浜薬科大学
http://www.okiyaku.or.jp/gakuyaku/gakujutu003.pdf

夏季や冬季に推奨されているCase2の「最低限の」換気方法(窓側後方窓を20センチ、廊下側前扉を20センチ開ける)の場合、保つことができる換気量は1190m3/hです。
文科省から出されている衛生環境の基準において、推奨されている換気量は
上の教室の広さ(192m3)で計算すると、
校種 | 必要換気回数(回) | 必要な換気量(m3/h) |
幼稚園 | 2.1 | 403.2 |
小学校低学年 | 2.4 | 460.8 |
小学校高学年・中学校 | 3.4 | 652.8 |
高等学校 | 4.6 | 883.2 |
一番換気量が少ないCase2の換気方法でも十分な換気ということがわかります。

換気が大事とはいえ、必要以上に行うと、室温が保てなくなり、風邪症状が…。
病気(コロナ)にならないために病気(風邪)にかかる、こんな変な結果は招きたくないですよね。
暑い時期や寒い時期は適切な最低限の換気を行うことが大事になりそうです。
まとめ

以上、歌唱や合唱とコロナウィルスの関係について、調べたことをまとめました。
参考になれば幸いです。
みんなで一斉に合唱する時の飛散の研究や、それについての対応策についての研究がまだなされていないことがわかりましたので、
「こうすれば絶対に大丈夫」という確証がもてなかったのは事実。

もし今回の記事について新情報などありましたら教えていただけるとありがたいです!
ちなみに、歌唱でマスクをすることが必須になったのですが、

息が吸いづらいんです。
今回の情報を調べているうちにこんなものがあるんだーと思ったものがありましたので紹介。
マスク用のインナープラケットというもので、
口や鼻とマスクの間に空間を作り、呼吸をしやすくするもののようです。

ずっと話したり歌ったりする音楽の先生にはもちろん
合唱部の練習などで活用してみても良いかもしれませんね。
(口紅がマスクについてしまうのにも効果的だそうです)
よかったら試してみてください!
では今回は以上です!
